お知らせ・店主ブログ
茶壺、茶箱、茶筒…お茶の容器からたどる歴史のハナシ
明治24年創業・お茶屋の網代園です。
突然ですが、皆さまに質問です。
茶壺(ちゃつぼ)・茶箱(ちゃばこ)・茶筒(ちゃづつ)
これらの道具を見聞きしたことはありますか。
「実物は見たことがない」
「響きだけなら聞いたことがあるかも」
というお声も、意外と多いかもしれません。
上記でご紹介したのは、各時代で活躍した
お茶の葉を保存・運搬するための容器。
こうした容器がどのように使われ、
普及していったのかをひも解いていくと
当時の日本人の暮らしぶりが垣間見えてきます。
今回は、お茶を入れる道具の変遷と
その歴史について、おはなししていきます。
-目次-
1. 茶壺(ちゃつぼ)ってどんな道具?
・ 室町~江戸時代:戦国武将が愛し、鑑賞した茶器
・ 童謡として伝わる〈 お茶壺道中 〉とは
2. 茶箱(ちゃばこ)ってどんな道具?
・ 明治~大正時代:日本経済を支えた海外輸出の立役者
・ お茶だけじゃない?〈 日本伝統の収納ボックス 〉
3. 茶筒(ちゃづつ)ってどんな道具?
・ 昭和以降~:食卓を彩る個性豊かな工芸品
・ 〈 茶筒選びのコツ 〉は、中まで覗くこと
4. 終わりに
1.茶壺(ちゃつぼ)ってどんな道具?
茶壺(ちゃつぼ)とは、葉茶の貯蔵や運搬に用いられた陶製の壺。
抹茶を入れる容器を小壷というのに対し、大壺とも称されました。
上部には蓋を縛るための紐を通す輪がついていて
高さは20~50cmほど、4kg以上の量が入るものもあったとか。
〈 茶壺の歴史:室町~江戸時代 〉
もともとは香辛料などを保存する中国産の壺で
商品をつめ輸入されたあと、日本では茶壺として活用したようです。
茶の湯文化が広まった室町時代、立派な茶壺は茶室に飾られ
実用品としてだけでなく、鑑賞対象としても珍重されました。
なかでも松花(しょうか)は、天下三名壷のひとつで
織田信長・豊臣秀吉など、名だたる武将へ受け継がれた逸品。
当時の記録に何度も登場し、現在は重要文化財に指定されています。
〈 お茶壺道中 〉
その後、江戸幕府が成立。
堅実派の徳川家康は、派手に飾り立てた茶会よりも
お茶そのものや健康効果に惹かれたようです。
好んで飲んだ京都の宇治茶を壺に入れ
毎年江戸まで届けさせる行事を、お茶壺道中といいます。
将軍家へ茶を献上するこの行事は、たいへんな権威をもち
お茶壺を、まるで人のように駕籠(かご)に載せ
多いときには、千人にも及ぶ行列で運ばせました。
道で出くわせば、諸国の大名でも道を譲らなければならず
庶民は顔を上げることすら許されなかったそう。
「ずいずいずっころばし」は、古くから伝わる日本の童謡ですが
実は、このときの様子を風刺的に歌ったものなんだそうです。
2.茶箱(ちゃばこ)ってどんな道具?
茶箱(ちゃばこ)とは、お茶を入れる大形の木箱。
原料である杉板は、他の木に比べてにおいが弱く
においを吸収しやすいお茶の葉を入れるのに最適な素材でした。
箱の内側には、防湿のため、柿しぶを塗った和紙がひかれましたが
その後、さびづらく耐久性に優れたトタン張りが主流に。
大きさは様々ですが、30kg・40kgサイズのものが多いようです。
〈 茶箱の歴史:明治~大正時代 〉
江戸時代後期になると、お茶の海外輸出が始まります。
貿易を再開したばかりの日本、お茶は生糸と並び
外貨を獲得する重要輸出品に位置づけられていました。
茶壺より頑丈で、持ち運びにも適した茶箱は
新たな入れ物として、活躍の場を広げていきます。
箱には、日本茶であることを示す木版画のラベルが貼られました。
銘柄や産地名がアルファベットで書かれたため、業界ではこのラベルを
「西洋の文字」を意味する蘭字(らんじ)と呼びました。
浮世絵の流れをくむ和洋折衷のデザインは
現代にも通用するアート作品として、再評価の光が当てられています。
〈 日本伝統の収納ボックス 〉
茶箱は、お茶問屋から小売店などへの輸送、
その後の保管容器としても活用されています。
興味深いのは、使用済みの箱を、収納用品として再販していたこと。
防湿・防虫・防酸化効果をもつ茶箱は、
特に着物やひな人形などの保管に重宝したとか。
網代園でも当時、お茶っぱではなく
茶箱を買い求めに来るお客様がいらっしゃったそうですよ。
関連記事:番外編・ご先祖さまのおはなし(その1)
3.茶筒(ちゃづつ)ってどんな道具?
茶筒(ちゃづつ)とは、主に家庭でお茶を保存しておくための容器です。
円筒の形が多く、素材は木・真鍮(しんちゅう)・ステンレスなどさまざま。
最も主流なのは、鋼板の表面にスズ(錫)をメッキしたブリキ製で
軽量でさびにくいのが特徴です。
〈 茶筒の歴史:昭和以降~ 〉
茶の湯を大成した千利休(せんのりきゅう)の時代から
筒状の茶入れは存在していたようですが
一般家庭へ普及したのは、それよりもっとのこと。
戦後の高度経済成長期以降、茶の輸出量は徐々に減少しますが
その輸出に代わるようにして、国内消費が伸びていきました。
そもそも、ひと昔前までお茶は高級品で
庶民が飲むのは、自家製のものがほとんど。
畑のあぜに植えた茶の樹を刈り取り、乾燥させてつくった番茶を
ヤカンや土瓶を使って煮出すという手法が一般的だったそうです。
店でお茶を購入し、急須で淹れて飲む、という生活習慣が根づいたのは
皆さまが想像するより最近のはなしなのかもしれません。
〈 輸出から個人消費の時代へ 〉
現在、お茶屋が店頭に並べている茶袋のほとんどは
内側にアルミ蒸着フィルムが貼られています。
これは、お茶の天敵「空気」「湿気」「光」を通さない素材で
輪ゴムやクリップなどを使い、袋の口をしっかり留めておけば
そのまま保管に活用することができるすぐれもの。
一方、昔のお茶は紙袋につめられ
口を紙縒り(こより)でくくった状態で販売されていたので
劣化を防ぐには、密閉性のある容器へ移し替える必要がありました。
輸出から個人消費の時代へ移り変わっていったお茶。
そのニーズに応えたのが、茶筒なのです。
〈 茶筒選びのコツ 〉
かわいらしい和紙貼りのもの
素材を生かしたシンプルなものなど、
いろいろなデザインの茶筒が売られています。
見た目の好みも、もちろん大切なのですが
茶筒を選ぶときは、ぜひ蓋を開け中を覗いてみてください。
蓋がぴったりと閉まるかどうか
内蓋がついているタイプかどうか
内蓋の素材は金属なのか、プラスチックなのか
つくりの違いで、密閉性に差が生まれます。
「ほうじ茶や番茶など、かさのはるお茶っぱを入れたい」
「茶葉をすくう茶箕(茶さじ)を一緒に入れておきたい」
など、使い方も人によってさまざまですから
できれば実際に目で見て、手に触れて
大きさや使い心地を確かめることをおすすめします。
4.終わりに
当時の暮らしに根づき、そして変化を遂げてきた
さまざまなお茶の容器たち。
ライフスタイルが変わった現代も、形やデザインを変えながら
人々の思い出や記憶に残るものになったらいいなと思う次第です。
お茶の保管や容器の取り扱いに関して
気になることやお悩みがあれば、ぜひ聞かせてくださいね。
それでは皆さま、すてきなお茶時間を。